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あいつらが負けるの、見た事あるか? いいや、全然。あいつらに言わせりゃ、勝つのは運命らしいぜ。 運命ぇ?…ただの偶然だろ、馬鹿馬鹿しい。 弱い奴狙ってるだけじゃないのか? …いや、むしろあいつら…強い奴ら狙ってるだろ。 あー、そういやそうか。 運命解体アルゴリズム 「え?」 それは、名前も知らないレッド寮男子の、なんてことのない雑談。 結社の人間とデュエルをし、負けたら結社の一員となる――というものだ。 白の結社、斎王を中心とする、白を好み運命を信じる集団。 デュエルを申し込み、負けた相手をひきこむという形で日に日に人数を増やしている。 三沢も島で暮らしている以上、結社に関する一連の出来事は知っている。 運命だの何だのとオカルトじみた御託を並べられるくらい負け知らずだと知っている。 三沢が足を止めた理由はそんなことじゃない。 「強い奴…?」 今まで順番なんて気にしたことなかった。 結社に引き込まれた生徒を順に思い出す。 真っ先に狙われたのは、万丈目や明日香…この島でも有数のデュエリスト。 次にブルー寮の生徒を集中的を狙い、寮を占拠した。 その結果が、先日起きたブルー寮の壁が真っ白に塗り替えられた珍事だ。 そして最近じゃイエロー寮の生徒も結社に行って… 間違いない。 結社は強い奴らから順に誘っている。 なのに…どうして…俺は…狙われていないんだ… どうして。どうして。どうして。 素朴な疑問はどんどん胸の中で広がり、気持ちの悪い不安感を煽る。 万丈目達よりも劣ると、そう…思われているのか。 それは、俺がラーイエローにいるからか。 …いや、イエロー寮の生徒は、もう勧誘され始めている… 自分は弱いのか。 とうとう、一番考えたくない可能性を見つけてしまう。 何か理由があるはず、きちんとした理由が…理由が… その思考は、何かにぶつかってプツリと遮られた。 「おっと」 「うわぁ…っと…あぶなっ…!」 その声に、ぶつかった相手が柱や机のような無機物ではないことを知る。 見ると、女の子の抱えていた重そうなダンボール箱がぐらりと傾いていた。 バランスを保つために右へ左へ重心を移動するが、それは余計バランスを崩すだけだった。 あえなくガチャガチャと賑やかな音を立てながら、中身は廊下に散乱した。 「すっ、すまない」 「こっちこそごめんね」 ぶつかった相手はという同級生の女の子だった。 二人とも謝りながら急いで箱の中身を拾い集める。 「…メダル?」 散らばった箱の中身は、GXと大きくデザインされたメダル。 背景には、経度と緯度だけの簡単な地球らしき絵が描かれていた。 リボンでの装飾もされており、作りもしっかりしている。 「先生に頼まれたの。倉庫に持っていくノーネって」 「クロノス先生か。…それにしてもすごい数だな」 ざっと見た限り、80〜90個くらいはあった。 こういった類のメダルは、金メダル、銀メダル、銅メダル、ノーベリー賞… 勝利者や優秀者に与えられるもの、というのが一般的だ。 だが、この数は少々多すぎる…このメダルはなんなんだろう。 内心首を傾げている間に、メダルは全て箱の中に収まっていた。 「…よし、これで全部ね」 「これだけの量があると重いだろう。俺も手伝うよ」 「本当?ありがとう」 倉庫への道中、何人かの生徒のとすれ違う。 こうして見ると、赤や黄色の制服を来た生徒ばかりだ。 …そのうち、赤ばかりになって、その赤も消えて…それでも俺は… 「ちょっと三沢君。顔色悪いよ?具合悪いんじゃ…」 「え?あ…ああ、心配いらない。それより、倉庫に着いたぞ」 箱をいったん床に置き、倉庫の重い扉を開ける。 「さて、あの荷物はどこに置いておけばいい?」 「そうだね場所が…ちょっとそこのものを除けようか」 「おや、もう一箱あったんだね。御苦労さま」 「あ、トメさん!」 倉庫の中にはトメさんがいて、さっき見たメダルを手にしていた。 そしてトメさんの前には、運んできたのと同じダンボール箱が数箱積まれていた。 「トメさん。これ、何か知ってるんですか?」 がメダルを1つ手に取り、トメさんに尋ねた。 「いんや。あたしゃ知らないよ。大会用って事で届いた荷物らしいけどね」 メダルにしては数が多いと思っていたが、これほどとは思っていなかった。 これ全部メダルだとしたら…生徒全員に配っても余るんじゃないだろうか。 「でもクロノス先生さっぱり心当たりないらしいんだよ」 「え?それじゃいったい誰が…」 「まあ、それで中身の確認を頼まれたんだけどね」 なるほど、それでトメさんが箱を開けていたのか。 納得していると、誰か倉庫内に入ってきた気配がした。 「トメさん。もう購買閉めたので、売上とパック補充の…」 「おやセイコちゃん。悪いんだけど、もうちょっと待ってくれるかい?」 トメさんが困った顔をしながらダンボール箱に視線を移した。 「えっと、私でよければ手伝いましょうか?」 「俺も手伝いますよ」 「おや、いいのかい?」 ――― 「ありがとよ。おかげで助かったよ」 手伝いもひと段落つき、トメさんが二人に礼を言った。 そして、1枚のカードを差し出した。 「これあげるよ。なんでも今度出る新作のカードだって話だよ…でも、1枚しかないねぇ」 どちらに渡そうか、二人と一枚のカードを困ったように見比べる。 「俺はいいよ。が受けとるといい」 「いいの?…じゃ、今度ドローパンおごるね」 「野菜パンが当たることを期待しておくよ」 「それじゃ、私たちはそろそろ帰りますね」 「気をつけて帰るんだよ」 校舎を出た時、夕焼けというには既に薄暗く、星も幾つか見えだしていた。 「早く帰らないと寮につく頃には真っ暗だな」 「帰る前に…少し付き合ってもらうわ」 三沢の言葉に応えたのはではなった。 不意に聞こえた第三者の声に振りかえると、白い制服を着た明日香が立っていた。 すでにデュエルディスクを構え、鋭い視線をこちらに向けていた。 「」 「な、なあに?明日香」 明日香の迫力に気圧されたのか、が半歩下がる。 「もちろんデュエルよ」 「いまから?も、もうすぐ夕食の時間だよ、第一…」 「問答無用。早く構えなさい」 「言っておくが、逃げようとしても無駄だぞ」 今度は横から別な声が聞こえた。 柱に寄りかかるように万丈目が立っていた。 よく見ると万丈目だけではなく、白い制服を着た人間が数人立っていた。 逃がすつもりは一切ないらしい。 本気出しすぎじゃないの、とが苦笑いを浮かべた。 「じゃあ、負けたら結社に入るっていう条件を…」 「私たちはデュエリスト。負けて結社に入るのが嫌なら手段は一つ」 「…要するに、デュエルに勝てってことね」 …そして俺は、蚊帳の外だった。 ギリギリと胃の痛くなるような感覚がこみ上げてくる。 俺はここにいる。 いるんだ。 「…そんなにデュエルしたいなら、俺が相手をしよう」 が驚いた顔をして俺を見た。 何か言いかけたようだが、俺はそれを制した。 どんな言葉だろうが、きっと俺を惨めにさせるだけだから。 「デュエルをしたい気分なんだ」 これはただの横槍なんだろう。 その上自分がなにか得する訳でもない。 「そうかそうか、そんなに寂しいなら、お前もついでに入れてやろう」 「つっ、ついでだとっ!?俺をおまけ扱いする気か」 「おまけじゃないと言うなら、実力を示してもらおうか」 でも、引かない。引けない。引きたくない。 「言われなくても。そうするさ」 「よぅし、俺と天上院君、お前とでタッグデュエルだ」 『デュエル!』 「先行はもらう。ドロー!」 手札には…Σ+とΣ-、それにリニアマグナムが来ている! …一気に手札が減りそうだが…いや、構うものか! あとは…プチリュウ?…こんなカード入れた覚えは…まあいい。 「俺は、手札のΣ+とΣ-を墓地に送り、超電導戦士リニア・マグナム+-を特殊召喚!」 「なんだ。随分張り切っているじゃないか」 「黙れっ!このデュエル、絶対勝たせてもらうぞ!」 このターン、まだ通常召喚が出来るが… 呼び出せるのはプチリュウだけか…よし。 「俺は、モンスターを守備表示で召喚。カードを二枚伏せターンエンド」 打てる手は全部打つ。 「俺のターン。ドロー!…俺はアームド・ドラゴンLV3を攻撃表示で召喚」 「アームド・ドラゴンデッキか…!」 仮面竜の特殊効果を使わず攻撃表示で召喚した!? …このターンの間に進化させる気だ。 「まずは、魔法カードスタンピング・クラッシュを発動!右の伏せカードを破壊するっ!」 ドラゴン族が自分の場に出ている時に発動できるカード。 魔法・罠カードを一枚壊した上に、500ダメージを与えるというものだ。 500のダメージを喰らい、伏せたスピリットバリアは破壊されてしまった。 「くっ…この程度、なんともないっ!」 「そうだ。…本番はこれからなんだからな」 「魔法カードレベルアップ!を発動!アームド・ドラゴンをLV5に進化させる!」 「くっ、やはり進化するか…!」 「ククク、貴様にも自分が敗北する運命が見えたようだな」 プチリュウが倒されれば、LV7に進化し攻撃力は2800、リニアマグナムを超える。 だが先ほど伏せた罠カード、マグネットフォースマイナスは無事だ。 リニアマグナムは戦闘時、磁気モンスター一体の攻撃力の半分を攻撃力に加えられる。 LV7を磁気モンスターに変えれば、如何に『攻撃力』が高くとも怖くない。 …怖いのは、アームド・ドラゴンの特殊能力の方だ。 「まさか俺がリニア・マグナムを放っておく…などど甘い考えをもってないだろうな?」 「…手札にあるのか。攻撃力2800以上のモンスターカードが」 万丈目が手札から一枚のカードを選び出す。 攻撃力3000のアームド・ドラゴンLV10を… 「そう言う事だ!俺はアームド・ドラゴンLV5の特殊効果発動!攻撃力3000のアームド・ドラゴンLV10を墓地に捨て、リニアマグナムを破壊する!」 アームド・ドラゴンの棘がミサイルのように一斉に射出され、リニアマグナムを襲う。 「くらえ!デストロイド・パイル!」 「リニア・マグナム…!」 「厄介な奴は片付けた!その目障りな守備モンスターを蹴散らせ!アームド・バスター!」 攻撃を喰らい、プチリュウがキュキュー!と苦しそうな鳴き声を上げ破壊される。 これで…フィールドはガラ空きになってしまった。 「俺は、二枚カードを伏せてターンエンド…そしてっ!」 アームドドラゴンLV5が爆煙に包まれ消え、アームドドラゴンLV7が現れた。 「LV5がモンスターを倒したエンドフェイズ…LV7を特殊召喚する」 「…わ、私のターン、ドロー!」 LV7を目の前にして、が少し怯む。 だが、このターンで倒し損ねれば、特殊効果でフィールドがガラ空きになるだろう。 「どうした。打つ手が見当たらないなら、サレンダーでもするか?」 「しっ、しないわよっ!私は魔法カードおとり人形を発動!」 この魔法は、魔法、罠カードゾーンにセットされたカード1枚を選択して発動。 選択したカードを確認し、罠カードだった場合強制発動させる。 攻撃反応型の罠などを事前に潰す事が出来るものだ。 「まず罠をなんとかしないとね。私が指定するのは右側のカードよ!」 「ククク…残念だったな。これは罠ではない」 万丈目の言う通り罠カードではなかった。 反転したカードの淵は緑色…魔法カードだ。 確認した後はそのまま伏せ直すだけ…なのだが、顔を蒼褪めさせたままそのカードを見ていた。 「…し、白のヴェール…」 「もう引いてたのか」 「もう十分だろう。また伏せさせてもらおうか」 …これが、運命の力だとでもいうのか。 呆然とする三沢たちなどお構いなしに、白のヴェールがまた伏せられる。 攻撃時、相手フィールド上全ての魔法・罠カードの効果を無効にし、破壊する白のヴェール。 アームド・ドラゴンと揃った時の力は、先日の万丈目と明日香のデュエルで立証済みだ。 「どうだ。白きアームド・ドラゴンに蹴散らされる運命を見た感想は」 「大人しく受け入れる…わけないじゃない!」 は万丈目達を見据え、絶対かつんだから、と自分に言い聞かせるように続けた。 「私は召喚師のスキルを発動!デッキからLV8のスパイラルドラゴンを手札に加える!そしてトレード・インを発動!LV8のスパイラルを墓地に送り、二枚ドロー!」 召喚師のスキルはLV5以上の通常モンスターを手札に加えることが出来る魔法カード。 そしてトレード・インはLV8のモンスターを手札から捨て二枚ドローする魔法カードだ。 「さあここからが本番。私は、闇の量産工場を発動!戻れスパイラル!プチ!」 闇の量産工場は、墓地の通常モンスター二体を手札に加える魔法。 墓地に送ったばかりのスパイラルドラゴンが、プチリュウと共にの手札に戻る。 の手札が一気に増えた、後はどう展開していくか…! 「そして、古のルール発動!手札のスパイラルを特殊召喚!」 通常モンスター限定だが、高レベルのモンスターを生贄なしで特殊召喚できる魔法カードだ。 「攻撃力…2900!?」 「まさか結社がこのままやられるなんてことは…」 「そこっ、静かになさい!デュエル中よ!」 「はっ、はいっ!」 ギャラリーがにわかに騒ぎ出したが、明日香に一喝され静かになった。 「それに驚くには値しないわ。光の結社が勧誘するのは、強いデュエリスト」 「つまり、この程度出来て当然というわけだ」 「それに、まだ決着がついたわけじゃない。運命は揺るがないわ」 仮にアームド・ドラゴンを倒せても、ライフを0にするには遠く及ばない。 明日香が茶吉尼を呼べば、効果でスパイラルドラゴン破壊される。 …それだけじゃない、間違いなく伏せられた白のヴェールを装備させる。 いや、そもそも伏せカードは1枚じゃない、もう1枚ある! 「っ!…?」 「…決着は…ついていない…」 はそう呟きながら、伏せ直されたヴェールを見ていた。 次のターンに訪れる危機に気付いたのだろうか? 少なくとも、攻撃を躊躇っているのは確かだ。 「…わ、私は魔法カード、ハリケーン発動!」 大きな風の渦が、魔法と罠カードを全て巻き込んでいく。 伏せられた白のヴェールともう一枚のカードが手元に戻り、万丈目が眉をひそめた。 「私はプチリュウを攻撃表示で召喚!さらに、装備魔法、進化する人類を装備!」 「…進化する人類だと?」 「えっと、今度出る新しいカード…らしいよ」 さっきトメさんがくれたカードだ。 は確認するようにテキストを読み上げる。 「自分のライフポイントが相手より下の場合、装備モンスターの元々の攻撃力は2400になる」 アームド・ドラゴンを倒しても、こちらの方がライフは下。 進化する人類の効果は有効、2400のダイレクトアタックが出来る! 「私はスパイラルドラゴンでアームド・ドラゴンLV7を攻撃!」 その巨大なヒレから巨大な渦を創り出し、アームドドラゴンを飲み込んでいく。 攻撃力の差100が、向こうのライフから削られる。 「そして、プチリュウでダイレクトアタック!」 「ぐうぁああああ!」 「…そして進化する人類のもうひとつの効果発動」 その小さな体で体当たりを終えると、プチリュウの攻撃力が下がっていく。 「ライフポイントが相手より上の場合、装備モンスターの元々の攻撃力は1000になる」 そして、はカードを二枚伏せてターンエンド宣言をした。 「私のターン、ドロー。私は魔法カード、機械天使の儀式を発動」 どのサイバーエンジェルを呼びだしてくるのか。 …もしスパイラルやられることがあれば、ただでは済まない。 ライフがほとんど残らないほどの大ダメージをくらうだろう。 「サイバーエンジェル−韋駄天−を生贄に、サイバー・エンジェル−弁天−を特殊召喚」 弁天、倒したモンスターの守備力分追加ダメージを与えるモンスターだが、攻撃力は1800とさほど高くない。 このままプチリュウに攻撃するようなら、次の俺のターンで倒せる…が… 「さらに、弁天にリチューアルウェポンを装備!」 攻撃力が1500上がる、レベル6以下の儀式モンスター専用の装備魔法。 これも運命に導かれているから、とでも言うつもりなのだろうか。 弁天の攻撃力が3300になり、スパイラルドラゴンを上回った。 「覚悟なさい、弁天でスパイラルドラゴンを攻撃!」 「きゃあ!」 綺麗に光るウェポンを使い、弁天がスパイラルドラゴンを襲う。 ど真ん中を射抜かれ、ドラゴンは大きな鳴き声をあげて破壊された。 双方の攻撃力の差400がライフから引かれる。 だが、これだけはすまない。 「さらに弁天の効果発動!スパイラルドラゴンの守備力分のダメージを受けてもらうわ!」 「きゃああああ!」 スパイラルドラゴンの守備力2900…かなり追加ダメージがきつい。 再びプチリュウの攻撃力が2400になったが…残りライフは200。 「私は1枚カードを伏せてターンエンド」 「どうだ。所詮貴様らでは運命は覆せない事が判ったか」 「運命に選ばれた者でもない限り、この弁天を倒す事は出来ないわ」 俺なんかじゃ奇跡を起こせないっていうのか。 弁天の元々の攻撃力は1800、プチリュウの今の攻撃力は2400…倒せるんだ。 あのリチュアルウェポンさえ…あれさえなんとかなれば簡単に倒せるんだ。 サイクロンさえ、引ければ。 「俺のターン!ドロー!」 引いたカードはプラズマ戦士エイトム。 俺なんかじゃ…奇跡を起こせないっていうのか。 お前は輝けない、ヒーローなんかになれないっていうのか。 胃がギリギリと痛む。 考えるなんて、もう辛いだけじゃないのか。 「奇跡のドローは、起こせなかったようだな」 「安心なさい。結社は全てを受け入れるわ」 受け入れる? 負けたら俺を受け入れるって言うのか。 負けたらおれを認めてくれるっていうのか。 ああ、そうだよな。 このデュエルに勝つって事は、結社が勧誘をあきらめるってことだ。 俺とはもう戦わないってことだ。 島にいる人間がどんどん光の結社に入っていく。 みんな白く塗り替えられたブルー寮に移っていく。 島だけに限らない、結社は世界中を埋め尽くしていく。 俺と関わりのある人間が減っていく。 世界中が真っ白になる。 それでも結社は俺と戦わない、関わらない、喋らない。 このまま負けて結社に入った方がいいんじゃないか。 「三沢、今日は色々ありがとう。…ごめんね」 三沢の動きが止まる。 まるで信じられないものでも見たかのように、を凝視する。 が謝った。 巻き込んだと思ったんだろうか。 俺は俺のために、首を突っ込んだだけだ。 逆だ。 負ければみんな受け入れてくれると思った。 俺は負けようとしていた。 逆だ逆だ。 負けて輝ける筈がない。 このデュエルは、勝たなければいけない。 逆だ逆だ逆だ。 パチンと、両手で自身の頬を叩く。 手札と場のカードを全て再確認する。 全ての計算をやり直す。 「覚悟は決まったのかしら」 弁天を倒す手段はない。 次のターン万丈目は白のヴェールを使ってくる。 どんな伏せカードをしようとも無駄だ。 だが、勝てる。 奇跡はもう起きていた。 「罠カードオープン!蘇りし魂を発動、墓地からスパイラルドラゴンを特殊召喚!」 「壁モンスターなど、弁天の前には無意味よ!」 呼び出したのは壁にするためじゃない。 このターンで勝つためだ。 「さらに、俺はスパイラルドラゴンを生贄に、プラズマ戦士エイトムを特殊召喚!」 弁天ではなく、プレイヤーに照準を合わせる。 エイトムの攻撃力が3000から1500に減る。 「エイトムの特殊効果は…攻撃力を半分にしてダイレクトアタックが出来る!」 今、万丈目達のLPは…1500! 「。すまない…ありがとう」 「え?…三沢なにか悪いことしたっけ?」 が不思議そうに首を傾げた。 三沢は万丈目達の方を向き、攻撃宣言をする。 「いけえ!アトミックブラスター!」 『ううううぅううああああああ!』 ――― 「そんなバカなッ…バカなっ!」 万丈目が膝をつき、何かの間違いだと繰り返す。 噛み殺してやろうかと言わんばかりの殺気に満ちた目。 不思議なデジャブ、こんな光景前にも見た気がする。 そうだ、退学をかけてデュエルした時…こんな目をしていた。 あの時、万丈目は一回り逞しくなって帰ってきた。 「なんだその目は。何が言いたい」 「結社なんかやめて、戻ってくる気はないのか?」 「…俺の戻る場所は光の結社だけだ」 明日香もどうやら同じ意見らしい。 そもそも、結社を抜けた人間なんているんだろうか? 「お前は…なんで結社にいるんだ?」 そこに、皆を戻すヒントがあるんじゃないか。 「フン。そんなの勝つために決まってるだろう」 「勝つため?」 万丈目の返答は、正直意外なものだった。 運命とか、そういう単語が出るとばかり思っていた。 「誰に?」 「誰って…それは…それは…」 万丈目は言葉を詰まらせ、考え込んだ。 いや、思い出そうとしているように見えた。 しかし、いつまでたっても思い出せない。 思い出せそうで思い出せないイライラに、万丈目自身がしびれを切らせる。 「…うるさいっ!そ…そんなの知るかっ!」 万丈目だけでなく明日香も踵を返し、ホワイト寮の方角へと歩いていった。 気がつけば、何人かいた結社の人間も居なくなっていた。 「行っちゃったね」 「そうだな」 結社を抜けたわけじゃない、でも、操り人形の目でもなかった。 プライドも目的も完全に消えてはいない。 遅かれ早かれ、二人とも戻ってくる。 そんな気がした。 「…ああ、忘れる前に返しておくよ。このカード、君のだろう?」 「あ、プチ!ありがとう。でもどうして三沢君のデッキに?」 「さあな。一体いつ紛れ込んだんだか…」 「んー…まぁ、細かいことはいいか。それより安心したらお腹空いてきちゃった」 「イエロー寮に来るか?カレーが余ってる筈だ」 「樺山先生のカレーが余ってるの?行く行く!」 と歩きながら思う。 明日になっても十代が呑気に釣りをしていたら、喝を入れよう。 万丈目とデュエルをしろ、学園を救えるのはお前だけじゃないのか、と。 もし、ヒーローのような活躍が出来ないと言うなら… もし、お伽噺じみた輝き方が出来ないというなら… その時は、俺なりの輝き方を研究してみよう。 end |